
執筆:看護師 図司真澄
朝起きたときに血圧が高い、あるいは寝不足の翌日に体が重く感じる――。
そんなとき、実は「睡眠」と「血圧」の関係が深く影響しているかもしれません。
十分な睡眠をとることは、血圧を安定させるための基本であり、健康を守るための大切な生活習慣のひとつです。


睡眠不足はなぜ血圧を上げるのか? 科学的なメカニズムから理解する
睡眠が不足すると「なんとなく疲れが取れない」「朝から血圧が高い」ということがあります。その背景には、自律神経のバランスが崩れることにあります。
自律神経は、活動時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経があり、この2つが血圧や心拍数の調整を担う重要な仕組みです。
本来であれば、夜の睡眠中に副交感神経が優位となり、血管が拡張して血圧が自然に下がります。しかし、睡眠時間が短い、または眠りが浅い状態が続くと、交感神経の働きが優位なままとなり、体が“緊張状態”を維持します。その結果、夜間の血圧が下がりにくくなり、翌朝も血圧が高い状態が続きやすくなるのです。
睡眠不足が続くと起こる体の変化
- 交感神経の働きが強まり、血管が収縮して血圧が上がる
- ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌が増える
- 深い眠り(ノンレム睡眠)が減り、夜間に血圧を下げる働きが弱まる
交感神経の過活動や睡眠の質の低下が続くと、心臓や血管に負担が蓄積して、慢性的な高血圧へとつながるおそれがあります。
夜間血圧の異常とノンディッパー型高血圧
一般的に、睡眠中の血圧は日中よりも10〜20%ほど下がります。
ところが、眠りが浅かったり、または睡眠リズムが乱れている場合、夜間に血圧が下がらない「ノンディッパー型高血圧」と呼ばれる状態になることがあります。※1
夜間に血圧が十分に下がらないと、血管が休めず、朝の時間帯に急激に血圧上昇するのが「モーニングサージ(朝の血圧上昇)」です。
このモーニングサージは、血管に強い圧力をかけ、脳卒中や心筋梗塞などの発症リスクを高めることが分かっていて、「朝だけ血圧が高い」という人は、この現象が関係している可能性があります。
睡眠障害と高血圧の関係

眠れない、途中で何度も目が覚めるといった「睡眠障害」も、血圧を上げる原因のひとつです。睡眠がうまく取れない状態は、体にとって慢性的なストレスとなり、自律神経を乱してしまいます。
睡眠時無呼吸症候群と高血圧
睡眠中に呼吸が繰り返し止まる「睡眠時無呼吸症候群」は、高血圧と深い関係があります。呼吸が止まると体内の酸素が減少し、そのたびに交感神経が刺激され、血圧が上昇します。
この反応が一晩のうちに何度も起こることで、夜や朝の血圧が高くなりやすくなるのです。
また、眠っている間に血圧が下がらない人や、起きた直後に血圧が急に上がる「モーニングサージ(朝の血圧上昇)」が起こる人も多く、脳卒中や心臓病のリスクを高めます。
いびきが大きい、朝起きても疲れが取れないなどの症状がある場合は、医療機関で相談してみましょう。
不眠症が血圧に与える影響
「なかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚める」といった不眠が続くと、体が十分に休息できず、交感神経が過剰に働き続けます。その結果、血圧を上げるホルモンの分泌が増え、血管が緊張した状態になります。
また、「眠れないかもしれない」という不安や焦りも、ストレスとして体に影響することも。こうした状態が続くことで高血圧が起こりやすくなります。
血圧を安定させるための睡眠改善・予防法

睡眠の「時間」と「質」を整えることは、高血圧の予防や改善に欠かせません。生活リズムを意識し、日常の中でできる工夫を積み重ねることで、血圧の安定につながります。
理想的な睡眠時間とリズム
一般的に、成人では1日あたり7〜8時間の睡眠が目安です。毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるようにすることで、自律神経のリズムが整いやすくなります。休日も極端に「寝だめ」をせず、平日との時間差を小さく保つことが大切です。※2
また、朝起きたらまず日光を浴びましょう。朝日光を浴びることで体内時計をリセットされ、夜の自然な眠気を促します。さらに、日中に軽い運動や散歩を取り入れることで、夜の睡眠の質を高めることができます。
眠る前の環境と行動を整える
眠りに入りやすくするためには、寝る前の環境づくりが重要です。 寝室は静かで暗く、暑すぎず寒すぎない温度を保つようにしましょう。
就寝の1〜2時間前にぬるめのお湯で入浴すると、体温がゆるやかに下がり、眠りに入りやすくなります。
一方で、寝る直前のスマートフォンやタブレットの使用は控えることが望ましいです。スマートフォンから発するブルーライトは脳を覚醒させ、睡眠のリズムを乱します。照明も明るすぎない暖色系の光にすると、自然にリラックスできます。
眠る前は深呼吸や軽いストレッチ、アロマの香りなどを取り入れ、心身を落ち着けるのもおすすめです。カフェインを含む飲み物(コーヒーや緑茶、エナジードリンクなど)は、夕方以降は控えましょう。
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睡眠の休養感を高める工夫
睡眠の「時間」だけでなく、「どれだけ休まったと感じるか」も大切です。この感覚を「睡眠休養感」と呼び、ぐっすり眠れたという満足感が心身の回復につながります。※2
睡眠休養感を高めるには、まず自分に合った睡眠環境を整えることが基本です。自分に合った寝具を選び、枕やマットレスの硬さを調整して寝返りしやすい姿勢を確保することが大切です。
一日の終わりには、心を静める時間をつくることも大切です。 日中の緊張を引きずったまま布団に入ると、体がうまく休息モードに切り替わりません。照明を落とし、音楽を聴いたり軽くストレッチをしたりして、自然に眠りへ向かう準備をしましょう。
さらに、「朝すっきり起きられたか」「日中に眠気がないか」といった感覚も、睡眠の質を見極める指標です。毎日の眠りを振り返り、疲れが取れていないといった疲労感が残るように感じるときは、睡眠環境や生活リズムを見直してみましょう。
交代勤務・夜勤の方が意識したいポイント
夜勤や交代勤務の仕事では、体内時計が乱れ、眠気や疲労がたまりやすくなります。仕事中の集中力や安全を保つためには、「仮眠」「カフェイン」「光のあび方」を上手に取り入れることが大切です。
仮眠を上手にとる
夜勤中の短時間の仮眠をとることで、眠気を軽減し、作業効率を保つことができます。ただし、60分を超える長い仮眠は深い眠りに入りやすく、起きた後に強い眠気が残ることがあるため注意が必要です。
夜勤中に適度な仮眠がとれるよう、静かで落ち着ける休憩スペースを確保することも大切です。
カフェインを上手に使う
カフェインには眠気や疲労を軽減する効果があります。夜勤中の作業に集中するために、カフェインをうまく活用するのも良い方法です。仮眠の前にコーヒーなどで少量のカフェインを摂取すると、仮眠後の目覚めがすっきりしやすくなります。
ただし、カフェインの過剰な摂取は健康や睡眠に悪影響があるため、控えましょう。
生活リズムをできるだけ整える
交代勤務ではどうしても生活が不規則になります。食事・睡眠・休憩の時間をできるだけ一定にすることが、体への負担を減らすコツです。
夜勤が週に1〜2回ほどある場合は、夜勤明けでも朝に日光を浴びて体内時計をリセットし、その日は夕方から睡眠をとり、翌日は普段の起床時間に戻すように意識しましょう。
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まとめ:睡眠を整えることが血圧ケアの第一歩
睡眠不足や質の悪い睡眠は、気づかないうちに血圧を上昇させ、生活習慣病のリスクを高めます。日々の睡眠リズムや環境を整え、時には見直すことが、血圧を安定させるための第一歩です。
今日からできる小さな工夫を積み重ね、心も体も休まる眠りを目指しましょう。
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※本記事の内容は、医療に関する一般的な情報を提供することを目的としており、個別の症例に対する診断や治療方法を示すものではありません。健康状態に関する具体的な相談やアドバイスが必要な場合は、必ずかかりつけの医師とご相談のうえ、適切な対応を検討してください。各自の健康状態やライフスタイルに合ったアドバイスを受けることが重要です。
◆参考文献:
※1:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」
※2:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」


