
執筆:看護師 図司真澄
健康診断や通院で「高血圧ですね」と言われた一方で、「貧血もありますね」と指摘され、戸惑った経験はありませんか。
血圧が高いのに貧血があると、「何か関係があるのかな?」と不安になる人も多いかもしれません。実は、高血圧と貧血はまったく別の指標でありながら、同時に起こることもあります。
本記事では、高血圧と貧血の関係を整理し、考えられる原因や症状、注意点をわかりやすく解説します。


高血圧と貧血は同時に起こる?まず知っておきたい基本知識
高血圧と貧血は、一見すると正反対の状態のように感じるかもしれませんが、体の中では同時に存在することもあります。
まずは「血圧」と「貧血」が何を意味する指標なのかを整理し、混乱しやすいポイントをわかりやすく解説します。
貧血とはどんな状態か
貧血とは、血液の量が少ない状態を指す言葉ではありません。
赤血球に含まれるヘモグロビン濃度が低下することで、全身へ十分な酸素を運べなくなっている状態を貧血といいます。ヘモグロビンは酸素を結合して各臓器へ届ける役割を担っており、数値が低下すると体は慢性的な酸素不足に陥ります(※1)。
一方で、血液の量そのものが正常であっても、ヘモグロビン濃度が低ければ貧血と診断されます。そのため、「血圧が高い=血が多い」「血の巡りが良い=貧血ではない」というわけではありません。
このように、血圧と貧血は評価している指標が異なるため、血圧が高くても貧血がみられることは珍しくありません。
医療現場では、貧血を評価する際にまずヘモグロビン値が重視されますが、赤血球数やヘマトクリット値とあわせて総合的に判断します。そのため、見た目や自覚症状がなくても、血液検査で貧血が見つかることは珍しくありません。
血圧とヘモグロビンは別の指標
血圧とヘモグロビンは、どちらも健康診断でよく目にする数値ですが、意味している内容はまったく異なります。
血圧とは、心臓が血液を送り出すときに血管の壁にかかる圧力を示す指標です。一方、ヘモグロビンは赤血球に含まれる成分で、全身に酸素を運ぶ能力を表しています。
そのため、血圧が高いからといって、酸素を運ぶ力が十分とは限りません。
血圧が高くても、ヘモグロビンの量が少なかったり、赤血球の数が減っていたりすると、体は酸素不足の状態になります。このような場合、高血圧と貧血が同時に存在することになります。
また、血圧は血管の状態や自律神経、塩分摂取量などの影響を受けやすいのに対し、ヘモグロビンや赤血球数は、鉄の状態、腎機能、慢性炎症、加齢などさまざまな要因によって変化します。
このように、血圧と貧血は別々の指標として評価する必要があります。
血圧が高いのに貧血と言われる主な原因

血圧と貧血は関係がなさそうに見えるため、両方を同時に指摘されると戸惑う人も少なくありません。実際には、高血圧が直接の原因で貧血が起こることは少なく、それぞれ異なる背景が重なっているケースが多いのが特徴です。
この章では、高血圧と貧血が同時にみられる主な理由を、順に整理して解説します。
鉄欠乏性貧血と高血圧の関係
鉄欠乏性貧血は、貧血の中でも最も頻度が高いタイプです。赤血球やヘモグロビンを作るために必要な鉄が不足することで起こり、食事からの鉄の摂取不足、消化管からの出血、鉄の吸収低下などが主な原因とされています。
高血圧があるからといって、鉄欠乏性貧血が直接引き起こされるわけではありません。ただし、高血圧の有無にかかわらず、鉄不足があれば貧血は起こります。
特に、胃や腸からの慢性的な出血、食事量の低下、偏った食生活などがある場合には、鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。
また、高齢になるほど複数の要因が重なりやすく、「血圧の問題」と「貧血の原因」が別々に存在しているケースも多くみられます(※1)。
腎機能低下による腎性貧血
腎性貧血は、腎臓の機能が低下することで生じる貧血の一つです。
腎臓には、赤血球の産生を促す「エリスロポエチン」というホルモンを分泌する役割がありますが、腎機能が低下すると、この分泌量が不足しやすくなります。その結果、赤血球が十分に作られなくなり、貧血が進行すると考えられています(※2)。
慢性腎臓病(CKD)では、高血圧と腎性貧血が同時にみられるケースも少なくありません。
高血圧は腎臓の血管に持続的な負担をかけ、腎機能低下を進行させる一方、腎機能が低下すると体内の水分や塩分調節が乱れ、血圧が上がりやすくなる傾向があります。高血圧と腎機能低下は、互いに影響し合う関係にあるといえるでしょう。
さらに、腎機能低下によって腎性貧血が進行すると、体は酸素不足を補おうとして心臓に負担をかけやすくなります。その結果、血圧のコントロールが難しくなる場合もあり、高血圧・腎機能低下・貧血が悪循環に陥ることもあります。
高血圧と貧血を同時に指摘された場合、腎臓の状態を確認することは重要です。血液検査に加え、尿検査なども含めて腎機能全体を評価しながら、慎重に経過をみていく姿勢が求められます。
【関連記事】高血圧と腎臓の関係とは?CKD(慢性腎臓病)予防に必要な知識を解説
その他の慢性炎症・加齢・生活習慣の影響
貧血は、鉄欠乏や腎機能低下だけでなく、さまざまな慢性疾患や加齢、生活習慣の影響によっても生じます。関節リウマチや慢性感染症、慢性心不全、がんなどの病気では、体内で炎症反応が続くことで、血液を作る働きが低下し、貧血が進行しやすくなります。
血液を作る働きは「造血」と呼ばれ、主に骨の中にある骨髄で行われています。
骨髄では赤血球・白血球・血小板といった血液成分が日々新しく産生されていますが、慢性疾患や炎症が続くと造血機能は低下しやすくなります。赤血球の産生が需要に追いつかなくなるケースもみられるでしょう。
そのような状態では、体内に鉄が十分に存在していても貧血が起こることがあります。
さらに、加齢に伴って骨髄の造血機能は徐々に低下しやすくなります。複数の持病を抱えていたり、服用している薬の種類が増えたりすると、貧血の原因が一つに特定できないケースも少なくありません。そのため、高血圧の治療を続けていても、高血圧とは別の背景によって貧血が進行していることがあります(※1)。
また、食事量の低下や栄養バランスの偏り、運動量の減少といった生活習慣の変化も、造血の働きに影響を与えます。特に高齢の方では、これらの要因が重なりやすく、高血圧と貧血が同時にみられる状況が生じやすくなります。
高血圧と貧血で現れやすい症状の違い

めまいや動悸、ふらつきといった症状があると、「血圧が原因なのか」「貧血のせいなのか」と迷うことがあるかもしれません。しかし、症状の出方だけで判断するのは難しいのが実情です。
この章では、高血圧と貧血で現れやすい症状の違いを整理し、注意すべきポイントを解説します。
貧血で出やすい症状
貧血では、体の各部位に十分な酸素が行き渡らなくなるため、さまざまな症状が現れることがあります。代表的なものとして、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れ、疲れやすさなどが挙げられます。階段を上ったときに息が切れやすくなったり、少し動いただけで動悸を感じたりする場合、貧血が関係している可能性があるでしょう(※1)。
ただし、貧血の症状はヘモグロビンの数値と必ずしも一致するとは限りません。ゆっくり進行する慢性的な貧血では、体が低いヘモグロビン値にある程度適応し、症状が目立たないこともあります。そのため、自覚症状がほとんどないまま、健康診断や血液検査で初めて貧血を指摘されるケースも少なくありません。
症状の出方には個人差が大きいため、「症状が軽いから大丈夫」「症状がないから問題ない」と判断するのは注意が必要です。
高血圧が「サイレントキラー」といわれる理由
高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれることがあります。その理由は、血圧が高くても自覚症状がほとんど現れないケースが多いためです。頭痛やめまいといった症状が必ずしも出るわけではなく、日常生活を普段どおり送れてしまうことも少なくありません。
しかし、自覚症状がない状態であっても、高い血圧は血管に継続的な負担をかけています。その結果、血管の動脈硬化が徐々に進行し、心臓や脳、腎臓といった重要な臓器にダメージが蓄積していくことになります。
症状が表面化した時点では、すでに合併症が進行しているケースも少なくないといえるでしょう。
また、貧血に伴うめまいや動悸などの症状があると、高血圧による影響と混同されやすくなります。そのため、症状の有無だけで血圧の状態を判断するのは危険です。高血圧は数値で評価する必要があり、定期的な血圧測定や検査による確認が欠かせません(※3)。
受診を検討すべきサイン
高血圧や貧血は、症状が軽かったり自覚しにくかったりすることがありますが、体からのサインを見逃さないことが大切です。特に、これまで安定していた数値が急に変化した場合には注意が必要です。血圧が急に上がった、あるいは血液検査でヘモグロビンが大きく低下した場合は、背景に別の病気が隠れている可能性があります。
また、動悸・息切れ・むくみといった症状が同時に現れている場合も、受診を検討する一つの目安といえます。これらの症状は、貧血だけでなく、心臓や腎臓に負担がかかっているサインとして現れることがあります。特に、少し動いただけで強い息切れが出る、横になると息苦しさを感じるといった変化がみられる場合には注意が必要です。
このようなサインがみられる場合には、自己判断で様子を見るのではなく、早めに医療機関を受診し、必要な検査や経過観察を受けることが安心につながります。
【関連記事】【心臓血管外科医監修】高血圧と心不全の関係を徹底解説!心臓を守る生活習慣と自己管理のポイント
高血圧と貧血を同時に指摘されたときの注意点
高血圧と貧血を同時に指摘されると、「自分でできることはないのか」と不安になることがあります。
特に注意したいのが、自己判断で鉄剤やサプリメントを使用することです。貧血があるからといって、必ずしも鉄不足とは限りません。腎性貧血や慢性疾患に伴う貧血では、鉄剤が適さない場合もあります。医師の指示なく鉄剤を使用すると、体に負担がかかることもあるため注意が必要です。
そのため、高血圧と貧血を同時に指摘された場合には、定期的な血液検査や血圧測定を通じて経過を確認し、必要に応じて検査内容を見直していくことが望まれます。疑問や不安がある場合は、早めに医療機関で相談することが安心につながります。
まとめ
高血圧と貧血は別々の指標ですが、体の中では同時に存在することもあります。「血圧が高いのに貧血」という状況は、決して珍しいものではありません。
鉄欠乏、腎機能低下、慢性疾患や加齢など、背景となる原因はさまざまであり、一つの数値だけで判断することはできません。
症状の有無に関わらず、検査結果を総合的に確認することが重要です。高血圧と貧血を同時に指摘された場合には、自己判断を避け、医療機関で継続的に経過をみていくことが安心につながります。
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※本記事の内容は、医療に関する一般的な情報を提供することを目的としており、個別の症例に対する診断や治療方法を示すものではありません。健康状態に関する具体的な相談やアドバイスが必要な場合は、必ずかかりつけの医師とご相談のうえ、適切な対応を検討してください。各自の健康状態やライフスタイルに合ったアドバイスを受けることが重要です。
◆引用文献:
※1: 成田美和子「貧血の分類と診断の進め方」日本内科学会雑誌.2015.104(7):1375–1382.
※2:日本腎臓学会「CKD診療ガイド2024」
※3:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」


