
執筆:看護師 図司真澄
冬になると「血圧が上がる」と感じる人は多いでしょう。寒さによる血管の収縮や自律神経の働きが、体にさまざまな影響を与えます。
本記事では、冬に血圧が上がる理由、季節特有のリスク、そして安全に過ごすための基礎知識を、医学的根拠に基づいてわかりやすく解説します。


冬に血圧が上がる理由と、その変動が招くリスク
冬になると、いつもより血圧が高めになる——そんな実感がある人も多いのではないでしょうか。
実は、この血圧上昇は気のせいではありません。季節の変化によって血圧は変動します。
寒い朝に外に出た瞬間、「手足が冷たい」と感じたことはありますよね。体の中では血管がぎゅっと縮み、血液を全身に送り出そうとする反応が起きているためです。
この章では、そんな“冬の体の仕組み”をわかりやすくひもときながら、気をつけたい血圧の変動リスクについて見ていきましょう。
寒さが血管を収縮させる生理的メカニズム
寒さを感じると、体は体温を保つために交感神経が活発に働き始めます。 交感神経は自律神経の一種で、体を「活動モード」に切り替える働きを持っています。
寒冷刺激を受けると、この交感神経が血管にはたらきかけ、末梢血管が収縮します。血管が細くなることで、体の中心に血液を集め、体温を保とうとするのです。これは、寒い環境で体を守るための自然な防御反応といえます。
ただし、血管が収縮して血液の通り道が狭くなると、心臓は全身に血液を送り出すために、これまで以上に強い力で血液を全身に送り出す必要が生じます。結果として、血管の内側にかかる圧力が高まり、血圧が上昇するのです。
このような反応は、誰にでも起こる生理的な変化であり、体が寒さに適応しようとしている自然なサインといえます。
ただし、もともと血圧が高めの人や心臓に負担がある人では、この変化が大きなストレスになることもあります。
朝晩の冷え込みと「モーニングサージ(朝の血圧上昇)」
血圧には1日の中で一定のリズム(サーカディアンリズム)があり、通常は昼間起きているときに比べて夜間の血圧が10〜20%ほど低下します。※1
一方で、夜間から早朝にかけて血圧が上昇する現象を「モーニングサージ」といいます。モーニングサージは、脳卒中や心筋梗塞などの重大な血管の病気を起こすリスクが高くなることがわかっています。※1
特に冬は、外気温の低下によって交感神経がより活発に働きやすく、血圧の変動が大きくなる傾向があります。
また、夜間も気温の低下によって血圧が上がることがあります。特に暖房を消した後の寝室やトイレなどの冷えた空間では、血管が急に収縮して血圧が上昇し、朝方に起こるモーニングサージと重なることで、血圧変動がさらに大きくなるケースもあります。
このような朝晩の血圧変動は、冬に脳や心臓の血管に関わる病気が増える原因の一つと考えられています。
脳卒中・心筋梗塞・ヒートショックのリスク
寒冷刺激を受けると、体温を保つために交感神経が活発になり、血管が収縮します。このとき血圧が急に上昇すると、血管の壁に強い圧力がかかります。
血管が硬くなっていたり、動脈硬化が進んでいたりすると、脳の血管が破れたり、心臓の血管が詰まったりする危険が高まるのです。
そのため、「温度差の大きい動作」は血圧を急上昇させる引き金になります。血圧が急激に変動する下記のようなタイミングでは、特に注意が必要です。
- 朝起きてすぐに布団から立ち上がる
- 暖かい部屋から寒い廊下・トイレに移動する
- 冷えた脱衣所で服を脱ぐ
このような環境の変化によって血圧が急に変動し、脳卒中や心筋梗塞などの病気を引き起こすことを「ヒートショック」と呼びます。
ヒートショックは高齢者に多く、特に高血圧や心疾患を持つ方ではリスクが高まります。また、冬場の夜間や早朝は気温が最も下がる時間帯であるため、入浴やトイレを利用する際は十分な注意が必要です。
冬の血圧上昇を防ぐ生活習慣と環境づくり

この章では、室温管理・服装・食事・運動・睡眠の整え方を通じて温度差とストレスを小さくし、冬の血圧上昇とヒートショックを予防する具体策を整理します。
さらに、日々の血圧変化を見逃さないために、自宅でできる血圧チェックのタイミングや記録の工夫についても紹介します。家庭での測定を習慣づけることで、季節による体調の変化を早めに察知し、安心して冬を過ごすことができます。
室温・服装・暖房の工夫で温度差を減らす
冬の血圧上昇を防ぐ第一歩は、部屋の温度差をできるだけ小さくすることです。
急な温度変化は血圧を大きく変動させる原因です。室内は暖房を使って20℃前後を保つようにし、特に脱衣所やトイレなどの冷えやすい場所もヒーターなどで暖めておきましょう。
外出時も、気温差による体への負担を減らすために、季節や気温に合わせて体温を調整できる服装を選ぶことも心がけましょう。マフラーや手袋、重ね着などで体の熱を逃がさないようにしつつ、屋内外の出入りで急に暑くなったり冷えたりしないよう調節できるのが理想です。
塩分・水分・栄養バランスを整える食生活
冬は鍋料理や汁物が多くなり、気づかないうちに塩分をとりすぎてしまうことがあります。
塩分の摂りすぎは血圧を上げる大きな要因の一つです。出汁のうま味や香辛料、酢やレモンなどの酸味を上手に使って、「薄味でも満足できる工夫」を取り入れましょう。
加えて、野菜・果物・海藻・豆類などに多く含まれるカリウムや食物繊維は、体内の余分な塩分を排出し、血圧を下げる働きを助けます。
特にみそ汁や煮物には、野菜や豆腐をたっぷり入れて具を多めにするように意識すると、自然に栄養バランスが整います。
無理のない運動とストレスケアで自律神経を整える
軽い運動は血流を良くし、血管をしなやかに保つうえで役立ちます。寒い季節は体を動かすのがおっくうになりがちですが、無理のない範囲で1日20〜30分程度のウォーキングや軽いジョギングを取り入れるのがおすすめです。
天気のよい日中など、比較的暖かい時間帯に行うと体への負担が少なく、続けやすくなります。
外出が難しいときは、室内でのストレッチや軽い筋トレでも効果的です。体を動かすことで、体重増加を防いだり、ストレス緩和などメンタルの安定にもつながります。
さらに継続することで血管の柔軟性が保たれ、血圧の安定にも役立ちます。
また、ストレスや睡眠不足は交感神経を刺激し、血圧を上げやすくします。夜はぬるめのお風呂で体を温めてリラックスし、睡眠の質を整えることも大切です。
深呼吸や音楽、軽いストレッチなど、心身をゆるめる時間を意識的にとることで、自律神経のバランスを保ちやすくなります。
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家庭でできる血圧チェックと記録のポイント
冬は血圧が変動しやすいため、家庭での血圧測定がとても大切です。
病院での測定だけでは把握しきれない日々の変化を、家庭血圧の記録から知ることができます。
測定のタイミングは下記が基本です。
- 朝:起床後1時間以内、排尿を済ませ、1〜2分安静にしてから
- 夜:就寝前のリラックスした状態で
測るときは、椅子に座って腕を心臓の高さに保ち、同じ条件で測ることが正確な記録のコツです。
朝晩それぞれ2回ずつ測定し、平均値を記録すると変化が見やすくなります。
最近は、スマートフォンを連携できる家庭用血圧計も多く登場しています。アプリで記録を自動でグラフ化すれば「寒い日の血圧が高め」「食事や運動の改善で安定してきた」など、自分の血圧の傾向や特徴を客観的に確認できます。
家庭血圧のデータは、診察時に医師が治療方針を判断する重要な手がかりにもなります。数値がいつもより高いときや、朝と夜の差が大きいときは、自己判断せず早めに医療機関に相談しましょう。
まとめ:寒い季節こそ“穏やかな血圧”を意識して
冬は寒さや温度差によって血圧が上がりやすい季節です。
寒冷刺激により交感神経が活発になり、血管が収縮して血圧が上昇します。とくに朝晩の冷え込みや暖房の効いていない空間では、血圧の変動が大きくなりやすいため注意が必要です。
血圧の安定を保つためには、下記のような日常の工夫が大切です。
- 部屋の温度差を減らす
- 食事で塩分を控え、野菜や果物をしっかり摂る
- 20〜30分程度の運動を習慣づける
- 朝晩の血圧を家庭で測定し、変化を記録する
寒い季節でも、体を温かく保ち、生活リズムを整えることで、血圧の変動を穏やかに保つことができます。
小さな工夫を積み重ねながら、“冬でも穏やかな血圧”を意識して過ごしていきましょう。
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※本記事の内容は、医療に関する一般的な情報を提供することを目的としており、個別の症例に対する診断や治療方法を示すものではありません。健康状態に関する具体的な相談やアドバイスが必要な場合は、必ずかかりつけの医師とご相談のうえ、適切な対応を検討してください。各自の健康状態やライフスタイルに合ったアドバイスを受けることが重要です。
◆引用文献:
※1:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」


