
執筆:看護師 図司真澄
高血圧と診断されている方は、まず医療機関を受診し、医師による適切な診察と治療を受けることが重要です。そのうえで漢方が必要かどうかを医師・薬剤師にご相談の上、処方を受けるようにしてください。
高血圧と診断されると、「薬を飲む以外にできることはないのか」「生活や体調の整え方も含めて考えたい」と感じる方も多いでしょう。
その中で、体質や日常の不調に目を向ける漢方薬に関心が集まっています。ただし、漢方薬は高血圧を治す薬でも、血圧の数値を即座に下げる薬でもありません。
漢方では、血圧の数値そのものを目標にするのではなく、血圧が上がりやすくなっている背景にある体調や体質を整えるという考え方が基本になります。医師による治療を基本としながら、体質や随伴症状を踏まえて補助的に用いられるものです。
本記事では、高血圧に対する漢方の考え方、代表的な処方、使用時の注意点を具体的に解説します。


漢方では高血圧をどう考えるのか
漢方医学では、高血圧という診断名や数値そのものよりも、「なぜ血圧が上がりやすい状態になっているのか」という体の背景を重視します。
同じ血圧の数値であっても、ストレスの影響を強く受けている人、冷えや疲れが目立つ人、のぼせや興奮が出やすい人では、体の状態は大きく異なるものです。
西洋医学が血圧値を管理することで脳卒中や心疾患を防ぐのに対し、漢方では血圧が高くなりやすい体の状態を整えることを目的としています。
漢方における「証」と体質の考え方
漢方では「証(しょう)」という考え方をもとに処方を決定します。
証とは、病名や検査値だけで判断するものではなく、体力の程度、体質、症状の現れ方、体調の変化を総合的に捉えた状態像です(※1)。
例えば、同じ高血圧と診断されていても、ストレスの影響を受けやすい人と、冷えや疲れを感じやすい人とでは体の不調の出方や背景は異なります。
漢方ではこの違いを重要視し、「実証」「虚証」「中間証」といった分類を参考に処方を考えます。これは体力や体調の充実度を大まかに捉えた漢方独自の考え方です。
冷えやすさ、のぼせやすさ、緊張の強さ、胃腸の調子、便通の状態などは、証を見極める大切な手がかりです。
このため、同じ高血圧という診断であっても、選ばれる漢方薬は人によって異なります。
高血圧と随伴症状を体質から捉える視点
高血圧は自覚症状がないまま経過することも多い一方で、頭痛、めまい、肩こり、動悸、耳鳴り、のぼせなどを伴うことがあります。
こうした症状は血圧の高さだけでは説明しきれないことも多く、ストレスや睡眠不足、冷え、血流の滞りなどが関係しているケースも少なくありません。
漢方では、これらの随伴症状を体からのサインとして捉え、血圧の数値と日々の体調の両方を見ながら判断していきます。
「数値はそれほど高くないのに不調が強い」「血圧が高めで体調も不安定」といった状態では、体質に着目する視点が重要になるといえるでしょう。
高血圧に用いられる主な漢方薬【体質・症状別】

高血圧に対して用いられる漢方薬は一つではありません。体質や症状の背景が異なれば、適する処方も変わります。
ここでは、医療現場で用いられることのある代表的な処方について、その考え方を紹介します。
釣藤散(ちょうとうさん)
釣藤散は、慢性的な頭痛やめまい、肩こりなどが続き、血圧が高めの状態と重なっている場合に検討される処方です(※2)。
特に、中高年以降でこうした症状が長く続き、日常生活に支障を感じている場合に用いられることがあります。
血圧の数値を直接下げることを目的とするのではなく、頭重感やめまいなどの不調を含めて体調の安定を目指します。
大柴胡湯(だいさいことう)
大柴胡湯は、体力が比較的あり、便秘がち、または耳鳴りや肩こりを伴う高血圧の方に検討される処方です(※3)。
ストレスが強く血圧の変動が大きいことで心身の緊張が体調に影響しているときや、便秘がある場合にも適しています。
黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
黄連解毒湯は、体に熱がこもりやすく、顔が赤くなりやすい、のぼせやすい、興奮しやすいといった特徴がみられる場合に検討されます(※4)。
ストレスや感情の高ぶりが体調に影響しやすいタイプで用いられることがあります。一方で、体力が低下している人には合わない場合もあり、体質の見極めが重要です。
七物降下湯(しちもつこうかとう)
七物降下湯は、血圧の数値を直接的に下げる作用を主目的とする漢方薬というよりも、高血圧に伴って現れやすい「のぼせ」「肩こり」「耳鳴り」「頭が重い感じ」といった不調の改善を目的として用いられる処方です(※5)。
一般に、体力がある人よりも、疲れやすい、体調を崩しやすいといった傾向がみられる場合に検討されることがあります。
高血圧の薬と漢方薬は併用できる?
高血圧の治療では、降圧薬による管理が基本となります。一方で、医師が服用中の薬や体調を確認したうえで、漢方薬を併用し、体調の安定を図るケースもあります。
重要なのは、自己判断で併用しないことです。薬同士の飲み合わせや成分の重なりを考慮し、服用中の薬や体調によっては注意が必要な場合があります。
飲み合わせ・注意点
漢方薬に含まれる甘草(カンゾウ)や、その成分であるグリチルリチンには注意が必要です。
甘草を長期間または多量に摂取すると、「偽アルドステロン症」と呼ばれる状態を起こすことがあります。
偽アルドステロン症とは、体内のホルモンバランスに影響が生じることで、塩分や水分をため込みやすくなり、その結果として血圧上昇やカリウム低下が起こることがある状態です。
むくみ、だるさ、筋力低下などが現れることもあるため注意が必要とされています(※6)。
漢方薬を使う際の注意点と受診の目安

漢方薬は「身体にやさしい」という印象を持たれることも多い一方で、体質や体調の変化を踏まえて使い方を見直すことが重要です。
体に合っていない処方を漫然と続けると、不調が改善しないばかりか、別の症状につながることもあります。
自己判断での服用がリスクになるケース
漢方薬は自然由来の成分から作られていますが、「体にやさしいから安全」とは限りません。
体質や体調、服用中の薬との組み合わせによっては、思わぬ副作用や体調悪化を招くことがあります。
特に注意が必要なのは、すでに高血圧の治療薬を服用している場合や、市販の漢方薬や健康食品を複数併用しているケースです。
同じ生薬成分を重ねて摂取してしまい、知らないうちに過量となることもあります。
また、「効いているか分からないけれど、なんとなく続けている」「症状が変わっても同じ漢方薬を飲み続けている」といった使い方も、体質に合わなくなっているサインを見逃す原因になります。
漢方薬は体質や症状の変化に応じて見直すことが前提の治療法であるため、自己判断での長期使用は避け、必ず専門家の確認を受けることが大切です。
医療機関に相談すべきタイミング
血圧が高い状態が続いている場合は、自己判断で漢方に頼るのではなく、まず医療機関で原因やリスクを確認することが重要です。
高血圧は自覚症状が少ないまま進行することも多く、自己判断で様子を見ることで、脳や心臓への負担が知らないうちに大きくなってしまうことがあります。
また、すでに治療を受けている場合でも、「血圧は下がっているが体調がすぐれない」「頭痛やめまい、疲れやすさが続いている」といったときには、治療内容の見直しや漢方薬の併用について相談するタイミングといえます。
症状の変化や不安を感じたときは我慢せず、早めに医療機関へ相談することが、安全で無理のない高血圧管理につながります。
まとめ|高血圧と漢方薬を正しく考えるために
漢方薬は高血圧を直接治したり、血圧の数値を必ず下げたりする薬ではありませんが、体質や高血圧に伴う不調を踏まえた補助的な選択肢として検討されることがあります。
重要なのは、血圧の数値だけでなく日常の体調や症状全体を見ながら、医師による治療を基本に、必要に応じて漢方薬を取り入れることです。
自己判断で使用せず、必ず医師や薬剤師と相談しながら進めることが、安全で無理のない高血圧管理につながります。
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※本記事の内容は、医療に関する一般的な情報を提供することを目的としており、個別の症例に対する診断や治療方法を示すものではありません。健康状態に関する具体的な相談やアドバイスが必要な場合は、必ずかかりつけの医師とご相談のうえ、適切な対応を検討してください。各自の健康状態やライフスタイルに合ったアドバイスを受けることが重要です。
◆引用文献:
※1:日本薬学会「随証療法」
※2:株式会社ツムラ「ツムラ釣藤散エキス顆粒(医療用)添付文書」
※3:株式会社ツムラ「ツムラ大柴胡湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
※4:株式会社ツムラ「ツムラ黄連解毒湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
※5:株式会社ツムラ「ツムラ七物降下湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
※6:日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」


