インスリンに関わる 4つの誤解 【医師 岩岡秀明氏】

PCと聴診器

糖尿病治療のエキスパートである、船橋市立医療センター(千葉県船橋市)代謝内科部長の岩岡秀明医師。前回(「2型糖尿病と診断されたら放置しないこと。適正な治療を続ければ合併症は怖くない」http://media.welby.jp/medicalworker/5997/)は、治療を中断しないことや、早期に糖尿病に関して最新かつ十分な知識があり適切な指導をしてくれる医師にかかることの大切さについてうかがいました。
今回は、通院しやすい地域に専門医がいなかったり、かかりつけ医がいなかったりする場合、どのように医師探しをすればいいのか。また「治療を中断させないこと」と同様に、大きな課題である「いかにスムーズにインスリン導入するか」についての解決策をお聞きします。(インタビュー、構成=荻島央江)

インスリンを早く導入すれば、早くやめられる

――2型糖尿病(以下、糖尿病)の場合、「いかに治療を中断させないか」のほか、「いかにスムーズにインスリン導入するか」というのもまた大きな課題だそうですね。

糖尿病になると膵臓から分泌されるインスリンの量が少なくなるので、足りない分だけ注射で補うというのが「インスリン療法」です。非常に有効な治療法なのですが、「インスリン製剤を注射で打つのは痛そうだし、低血糖も怖い。一度インスリン療法を始めたら一生やめられないし、先が短いと聞く」と、インスリン療法をためらう患者さんが多いのです。

しかし、これらはすべて誤解です。
まず誤解の1つ目は「インスリン注射は痛くて大変」です。インスリン注射で使う専用の注射針は採血で使う注射針の3分の1程度の細さしかなく、痛みはほとんどありません。

2つ目の誤解は「低血糖が怖い」。確かにかつてのインスリン製剤では低血糖になる例が数多くありました。今はインスリン製剤の種類は豊富で、3時間程度しか効かない「超即効型」や、1日中ゆっくりじっくり効く「持効型」なら、低血糖リスクは少ないでしょう。むしろ今はインスリンよりSU薬による低血糖のリスクのほうがずっと怖いのです。経口薬は1回服用すると、特に高齢者の場合は3~4日は体内に成分が残ってしまうものもあり、注意が必要です。

3つ目の誤解は「一度インスリン療法を始めたらやめられない」。かつてインスリン療法は糖尿病がかなり進行したときの最終手段だったので確かに途中でやめられませんでしたが、様々な治療法が確立した今は、早く打てば、3カ月くらいで半分以上の人がやめられます。

4つ目の誤解は「インスリン注射を打つようになったら先は短い」。これは因果関係が逆で、昔は病気が進行し、合併症がかなり悪化した段階でインスリンを導入していたため、そう見えただけのことです。

相手に応じて分かりやすく説明できるのが専門医

――そこまで説明すると、患者さんはすぐに理解を示してくれますか。

長い時間をかけて広まった誤解ですから、一筋縄ではいきません。私の場合、インスリン療法が有効な理由を、相手に応じてたとえ話を使い分け、分かりやすく説明するようにしています。

患者さんが高齢の場合は、膵臓を井戸、インスリンを井戸水に例えて話します。井戸水をどんどん汲み上げ続けていると、井戸は枯れていく。今はいわば飲み薬という電気ポンプで井戸水を無理に組み上げているようなものだから、少し井戸を休ませ、よそからもらい水をしましょう。何カ月か休ませれば、だんだん地下水がしみてきて、また井戸水が出てきます。こんなふうに話すと「インスリン注射を打ってみようかな」という気になるわけです。

若い人の場合なら、貯金に例える場合もあります。使いきれないほどの貯金があればいくら使おうが構いません。でもあなたの膵臓のインスリンをつくる力は正常な人の何分の一しかなく、かつそれがどれくらいの数値なのかは今の医学ではなかなか分からない。今あなたが飲んでいるSU薬という薬は自分の膵臓に鞭打ってインスリンを出させる薬だから、自分の貯金をどんどん使ってしまうことになり、このまま飲み続けるといつか使い果たしてしまう。だから貯金を使わずに、他から借り入れましょう。お金を借りると普通は利息がかかるけど、インスリンなら利息はつかないし、自分の貯金に手がつかないから、貯金は守られます、といった具合です。

ここまで丁寧に説明すれば、たいていの患者さんはインスリン療法に前向きになってくれます。今は、数値でいうと随時血糖が350 mg/dl以上、HbA1c10%以上の人は通常はインスリン療法から始めます。それが10年以上前から糖尿病専門医の間ではスタンダードになっています。ただ糖尿病が専門外の内科の先生の場合、普段から勉強していないと知らないかもしれません。

医師選びの基準になる質問とは

――信頼できる先生を見つける秘訣はありますか。

試しに診察のときに「自分の家族がインスリン療法を勧められたのですが、どうなのでしょうか」と聞いてみてはいかがでしょう。「インスリンなんてなるべく打つものじゃないよ。インスリンを打つようになったら自分の膵臓が怠けてしまい、一生やめられないよ。」といった回答をするようなら、この先生は糖尿病に関する知識が不十分な可能性が高いでしょう。この質問への回答で先生の知識がどの程度か分かりますから、医師を選ぶ1つの基準になるかもしれません。

優しい先生が必ずしもいい先生ではないのが糖尿病です。糖尿病は自己管理が大事な病気ですから、ある程度、厳しく言ってくれたり、インスリン治療について粘り強く勧めてくれたりする先生は信用できると思います。「いいよ、いいよ。このままで大丈夫だよ。」と言われていて、いつのまにか合併症が悪くなってしまう患者さんも残念ながらまだまだおられます。

また、良い医者ほど早く患者を手放します。すぐに入院が必要ならこことか、インスリン導入が必要ならこことか多くのネットワークを持ち、素早く紹介してくれるかどうかもかかりつけ医選びの大事なポイントと言えます。

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話し手ご紹介

岩岡先生

船橋市立医療センター
代謝内科部長 岩岡秀明氏

1981年千葉大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院及び国立柏病院で内科臨床研修終了後、糖尿病研究室に所属。成田赤十字病院内科などを経て、2002年4月船橋市立医療センターに着任。日本糖尿病学会認定糖尿病専門医・指導医、日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本内分泌学会認定専門医


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