「無関心期」からしっかりかかわって軽症で食い止める 【医師 大橋博樹氏】

多摩クリニック3

日本ではまだ数少ない家庭医療のトレーニングを受けた「家庭医療専門医(家庭医)」である大橋博樹医師。赤ちゃんからお年寄りまで家族みんなが安心して受診できる“町のお医者さん”を目指し、2010年4月に開業したのが多摩ファミリークリニック(川崎市)です。開業してわずか4年ながら地域の人々から多くの信頼を集め、家族ぐるみでかかる患者さんも少なくありません。

その中には生活習慣病の患者さんも大勢含まれていますが、専門のクリニックと違うのは、患者さんの意識がそこまで高くはないこと。そうした患者さんたちに治療における生活習慣の重要性を改めて理解してもらい、行動変容につなげていくことは重症化させないためにも重要なポイントです。大橋医師は患者さんに対してどのようにアプローチしているのでしょうか。(インタビュー、構成=荻島央江)

怖がらせるのではなく、次の受診の約束を取り付ける

――患者さんは0歳から100歳以上までと幅広いとか?

家族ぐるみのお付き合いという方が多いです。3代でかかられているのが100家族、4代も10家族いらっしゃいますよ。

外来は「予約」と「予約外」で受け付けていますが、予約の患者さんは糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のある方がほとんど。一方、予約外はお子さんが7割を占めます。

月の外来数は3000~4000人で、新規の患者は150人くらい。つまり新患以外の方は継続的にかかってくれている患者さんです。

――患者さんに何か特徴的なことはありますか。

男性の場合なら、会社の健診で引っかかり、奥さんに尻をたたかれて重い腰を上げたという人が多いですね。とりわけ働き盛りの40代、50代の人たちは忙しいですから、症状がない限り自発的に病院に行こうとは思わないのでしょう。そんなふうだから自身の状態にあまり関心がありません。

こうした時期を「無関心期」と呼びます。関心がないときにいくら「あなたはこんなに怖い病気になったんですよ」と脅かしても、患者の行動は変わらないという研究結果があります。だから僕らのクリニックでは、無関心期にある人たちにどうにかして関心をもってもらい、行動変容につなげていくことに重点を置いて取り組んでいます。

無関心期の患者さんに対しては、「3カ月後、半年後にもう1回だけ採血させてほしいので、その頃に必ず来てくださいね」と話す。怖がらせるのではなく、その約束だけ取り付けるというのが僕らの考え方です。

「関心の芽」をいかに引き上げるか

どんな人でも年に数回は自分の体に関心を持つことがあります。僕たちは「関心の芽」と言っているのですが、その小さな芽が出たときを逃さずに、いかに引き上げられるか。そこを重視しています。

例えば、生活習慣病であると診断されたばかりの患者さんからよく言われるのが、「薬を飲み始めたら、一生ずっと飲み続けないといけないんでしょ?」ということです。みなさん薬を飲むことに抵抗を感じているんですね。そんなときの最初の一手はなかなか難しいのですが、よほど緊急性が高い人は別にして、無理に薬を飲ませることはしません。

ではどうするか。こうした場面でも「じゃあ薬を飲まないでやってみてください。その代わり、3カ月に一度くらいは必ず状態を見させてくださいね」と約束を取り付けます。そうこうするうち、身近で同じ病気の人が倒れたとか「関心の芽」が出るときがある。僕らはその機をきちんとつかまえて、一気に治療への意識を持ってもらうわけです。「心配ですよね。だったら生活を少し変えてみましょう。今はいい薬もあります」といった具合です。

頭ごなしに治療に取り組んでもらっても、継続できなければ効果は一時的なものに留まります。経験からいっても、患者さんの行動はじっくりと定期的に向き合う中で少しずつ変わっていくもの。少しずつ変えていくほうが長い目で見れば有効で、そのためにはやはり「関心の芽」が大切なんですね。

患者さんの立場になれば、これから少なくとも年単位で病院に通い、かつ自分の行動も変えていかなければならないのですから、かなりのインパクトでしょう。当然ながらそれなりに心も体も準備する期間が必要なのです。

――患者さん本人が行動を変える気になってくれれば、治療もしやすいですね。

ただ最初は患者さん自身も何から初めていいか分からない状況なので、まずは薬を使って数値をある程度までしっかり下げ、そこから病気について詳しく話をしていくほうが現実には多いかもしれません。

まずは3カ月間くらい、薬で調整していきましょう。その間に、どんな病気なのかをインターネットなどで調べてみてくださいとお話しします。数値をいったん下げてからがスタートして、そこからどう薬を減らしていくかという方向で、という感じですね。

できない相談はしない

生活を変えてもらうときに、できない相談はしないよう心掛けています。残業が多く、いつも終電に近い時間に帰っている人に、「残業を減らしなさい」とは言いません。

そんなときは「夜7時の段階で、とりあえずおにぎりを1個食べるというのならどうですか。できそうですか」と妥協点を見つけ、アプローチしていくことが大切でしょう。

「それは軽症だからできることだ」と言われることがあります。確かにそうかもしれません。ただ、僕らは軽症の段階でしっかりかかわって重症化しないようにすることが、とても大切な活動だと思っています。
かかりつけ医だからこそ、薬を出して、「はい、おしまい」にはしたくないのです。

引き続き、「患者のQOLや幸福感を高めるかかりつけ医になりたい」をお届けします。

話し手ご紹介

大橋先生

多摩ファミリークリニック
院長 大橋博樹氏
URL: http://www.tamafc.jp/

獨協医科大学卒業後、武蔵野赤十字病院にて臨床研修修了。聖マリアンナ医科大学病院総合診療内科・救命救急センター、筑波大学附属病院総合診療科、亀田総合病院家庭医診療科勤務を経て、川崎市立多摩病院開院準備に参画。2006年2月の開院より総合診療科医長として従事する。2010年4月に多摩ファミリークリニックを開業。聖マリアンナ医科大学非常勤講師も務める。著書に『かかりつけ医がいるとプラス10年長生きできる』(幻冬舎)がある


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